君に届かなかった僕の高校時代のことは振りかえらない ――椎名軽穂『君に届け』

今日は、『ちはやふる』10巻に加え、
別マ、別フレベツコミの発売日で、少女マンガ好きにはたまらん一日でした。

バイト先が本屋なので、こういう日は迷わず自分の好きなのを買って帰ります。
こんなことしてるから金が貯まらないんですが。


(というわけで、買ってきた)


ちはやふる』について何か書こうと思ったんですが、
あえて今回は別マの大看板『君に届け』について書きます。

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君に届け 10 (マーガレットコミックス)

君に届け 10 (マーガレットコミックス)


貞子を彷彿とさせる外見から、文字通り「貞子」というあだ名を付けられ、
ひと言で言うとクラス中から避けられている女の子・黒沼爽子。


本人は常にクラスメートに明るく接そうとしているのだが、みんな怖がっているため、全く友達ができていない。


そんな彼女が、文武両道で人格良しのイケメン、風早くんとの交流を通じて、
少しづつ周りの理解を得ながら、成長していく物語である。




私は、これを5周以上読んでいる。


作業に疲れた時、現実の人間関係でうんざりしたときは、この漫画を開く。


すると、たちまちその鬱屈した感情を吹っ飛ばすように、
顔を赤らめ、足をバタつかせながら、マンガの世界に取り込まれる境地を体感することができる。


だからこの漫画は、基本的に部屋で1人、戸締りを万全にして、
窓など外部からの視界も完全シャットアウトして読まねばならない。


実を言うと、7巻くらいまでは順当に良い話、
「爽子がんばれー」くらいのテンションで済むのだが、
8巻あたりから赤面感のボルテージが飛躍的に上がってくる。


なぜか。


それについては、いささか婉曲的だが、以下の点を説明せねばなるまい。


君に届け』(以下「君届」)は、現在押しも押されぬ人気マンガの地位を確立したが、
光ある所には影あり、この作品に苦言を呈する人も少なからず存在する。


その最たる理由は、風早くんの「王子様」性に由来する。
要するに、「こんな男いねーよ!」という感覚である。


この感覚は、男性が少女マンガの読者になる際に立ちはだかる参入障壁となる。その最たるものだ。


確かに先述のとおり、風早くんはイケメンで文武両道で人当たりがよく、文句のつけようもない完成度を誇る男子高校生だ。


言い方を変えれば、学業スポーツともにイケメンであり、人当たりもイケメンなのだ(ちなみにこの言い換えに意味はない)。


共学でありながら非リア戦士として任期を全うした筆者も、上の文を書いていて少しのルサンチマンも湧かなかったと言えば嘘になる。


また、筆者のような真性陰キャラ男子でなくとも、
少女マンガの所謂「シンデレラ・シンドローム」的な展開に対して折り合いをつけ、
「現実にはこんな恋愛おこんねーよ(フフン」と鼻で笑えるようになってしまった大和撫子もまた、
風早くんに対して一悶着つけたくなることだろう。


しかしながら、8巻辺りから、それまで「王子様」的存在として描かれていた風早くんが妙な迷走を始める。
爽子がバレンタインの日にチョコを渡し損ねてしまうのだが、それ以来「爽子にとって自分は“特別”ではなかったのか」と悩み始め、
実に、実に高校生らしい思考のループを開始する。


この流れを見ていると、少なくとも男子は、それまでのルサンチマンとは一転、風早くんに猛烈な親近感を覚え始める。
「あれ、こいつ俺みたいな悩みしてる」と思った男子は少なくないはずだ。
詳細はぜひ本編を読んで確認していただきたい。


私は男性視点からしか述べることができないが、
風早くんも存外に「悩める男の子」であることがわかったとき、
それまで「風早くん」としてどこか遠巻きに感じていたのが一転して、「おい風早!」と声をかけたくなるのだ。


そう、8巻以降、風早くんは「風早」になる。
遠巻きに思っていた「王子様」から、極めて身近な「良いやつだけど、悩める男子」へと変貌を遂げる。


こうして、爽子と風早、共に応援したくなった瞬間から、怒涛の赤面タイムが始まる。
それがどういう感覚かは、ぜひ読んでみて体感してほしい。向こう2週間ほど脳内が君届でいっぱいになっても筆者は責任を取らない。


風早、ナイスヘタレ!